素謡「玉葛」
シテ・香川靖嗣
ワキ・大村定
地謡・友枝昭世・香川靖嗣・塩津哲生・内田安信・佐々木宗生・大村定・谷大作・佐藤章雄・友枝雄人・粟谷浩之
上述の通り、私はこの演奏を聴いて、「玉葛」が往生を遂げることができずに苦しんでいる理由がようやく 自分なりに納得できたように感じられたのだが、それがその感覚とどこまで関係あるかどうかはわからない。 演奏が終わった後、私が連想したのは「求塚」だった。勿論、作品の質は全く異なるのだが、あの、選ぶことが できなかったというそれだけの理由で救いを絶たれた菟名日処女と、流れに棹差しているようで、結局は 紅葉もろとも雨に降り込められてしまうしかない玉葛とが、その受動性において重なるような気がしたのだ。 いずれについても仏教的な倫理観に基づくもので、今日的ではない、という考えもあるようだけれども、 私は必ずしもそうは思わない。こういう感じの違和感、寄る辺無さというのは、実はとても深い絶望に つながっているのではないかという気がして、心理的な機序としては自然であるようにすら思えるので。
今回の素謡は大変に説得力があったので、一度是非、香川さんのシテで「玉葛」観てみたい。