2000年6月11日日曜日

「第51回川崎市定期能」(川崎能楽堂・平成12年6月10日)

能「阿漕」
シテ・香川靖嗣
ワキ・大日方寛
アイ・三宅右近
後見・友枝昭世・狩野了一
笛・内潟慶三
小鼓・亀井俊一
大鼓・佃良勝
太鼓・金春国和
地謡・塩津哲生・大村定・中村邦生・長島茂・友枝雄人・粟谷浩之


私が能を初めて観たのは、川崎市民能での本間英孝さんの「熊坂」、 その後しばらく間が空いて、関根知孝さんが地頭の「清経」以降、 川崎市民能を続けて観たが、がっかりする回もあり、書き留めて 置きたいと思えるのは、結局、喜多流の2回になる。 川崎市民能は2番立てだが、1番毎に入れ替えなので通常1回1番 しか観ないのだが、喜多流の回は結局どちらも2番とも観た。

「阿漕」は、今まで観た中で全編を通した印象では最高の舞台。 最初から最後まで、緊張が緩むことはなく、シテの動きの一つ 一つに釘付けになった。 前半のシテの出がまず尋常でない。後で考えたら最初は漁師の 翁が出てきただけのはずなのだが、気配が普通でない。 不気味で恨めし気な気配に満ちている。謡と所作により、 克明に情景が具体化されていくのに驚いた。この舞台、 思い出しても能舞台は思い浮かばないのだ。 「繰り返し繰り返し浮きぬ沈みぬと見しよりも」のところの 憑かれたような表情、そして圧巻は「にわかに疾風吹き」の ところ。面をキルのだが、その鋭さ。今思い出しても ぞっとする。塩津さん地頭の謡の転調も凄まじく、場面の 急転の鮮やかさは忘れることができない。 明るさの変化、温度の変化、突然の恐怖、耳を覆った時の 表情には鳥肌が立った。 後半も眼前に繰り広げられる光景に驚き入るばかり、 「悪魚毒蛇となつて紅蓮大紅蓮の氷に身を傷め骨を砕けば 叫ぶ息は焦熱大焦熱の焔煙雲霧...」 最後は助けを求める叫びを残して沈んでいってしまう。 内潟慶三さんの笛、佃良勝さんの大鼓と囃子方も最高で 能の表現力の物凄さをとことん思い知ったといった感じの 一番だった。

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